3月1日、古秩父湾の遺跡群が国の天然記念物として、官報により文部科学大臣告示されました。文化財としてしっかり保護するとともに、教育資源、観光資源としても、大いに活用が期待されます。
さて、本年度も残りわずか、学校においても卒業式の準備とともに、今年度のまとめ、来年度に向けた年間指導計画等の準備に大忙しだと思います。
昨年、10月の教育長メッセージで、「できることを増やしていく喜び」ということで、全国学力・学習状況調査の厳しい結果を踏まえた対応を求めました。そして本年度についても、この調査で測定できるのは、学力の一部分であり学校教育の一側面にすぎないことを前提に、学校ごとの調査結果を改善に向けた取り組みとともに公表しました。各学校では、全国、埼玉県内、秩父市内における自校の位置付けを確認しつつ分析を行い、指導の改善に向けて努力しています。
他の学校との比較には、どのような意味があるのでしょうか。他との上下で一喜一憂するのでは、意味がありません。ただ、同じ年齢で、学習指導要領で決められた同じ内容を同じ時間学習した結果、自校がどのような位置にあるのか、その傾向を把握することは、自校の学力の状況を把握し改善を図る上で、極めて貴重な情報であると思います。
学校ごとの結果の公表には、過度の競争につながるのでは、との懸念がありました。しかし、全体における位置を確認した上で、より、いい結果を出そうと努力することは、子どもたちにとっても、望ましい向上心につながるものであると思います。では、子どもたちは、誰と競い合うのか?仲良しのA君となのか?学級1番のB君となのか?私は、今の自分と競い合ってほしいと思います。今の自分より、できること、分かることを増やしていく。そのために努力する。もちろん、周りの人たちの状況も参考にしながら。そのような努力の結果は、後からついてきます。そのようにして、後からついてきたいい結果は、子どもたちにとって、これからの世の中を生きていく上で、とても大切な力になっていくと思います。
誰のための学力向上か?何よりも子どもたち自身のための学力向上の取組を進めたいと思います。子どもたちが将来への夢や希望を描き、その実現のためには、今、基礎学力を身につけることが大切であることを自覚し、主体的に学ぶ姿勢をもつことが大切であると思います。そのためには、今、何故学ぶのか?学ぶことの意義?についての子どもたちの疑問にしっかりと答え、子どもたちの将来を見通した学力向上の取組を進めていきたいと思います。
昨年12月に策定された埼玉県の教育大綱を拝見しました。前文の子どもたちへのメッセージには、「障害などの困難さを抱えている方には特別な支援の手を差し伸べること」とあります。また、本文には、発達障害も含め「様々な課題を抱えた子供たちに教育を通じて支援します」としっかりと謳われています。
ご承知のとおり、我が国は平成26年1月に「障害者の権利に関する条約」を批准し、教育においては、インクルーシブ教育システムの構築が求められています。批准に向けた準備の過程で、平成24年7月には、中央教育審議会初等中等教育分科会から「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」の報告が出され、現在、全国でこの報告に沿った取組が進められています。
同報告によると、インクルーシブ教育システムにおいては、「同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である」とされています。
これは、現在の小中学校の現状をみると簡単なことではなく、県立の特別支援学校との連携・協力は必須といえます。全国的にみても自治体間の取組に大きな差があり、その実現にはまだまだ時間がかかるものと思われます。しかし、共生社会の形成という我が国が進むべき方向に向け、一歩一歩しっかりと取り組んでいく必要があります。
インクルーシブ教育システム構築においては、その前提となる、障がい理解、障がい者理解が極めて大切です。そこで、秩父市においては、本年度、文部科学省から「インクルーシブ教育システム構築モデル事業」の委託を受け、パラリンピック種目などを通じた交流および共同学習による障がい者理解(心のバリアフリー)に取り組みました。
アンプティーサッカー日本代表・元パラリンピック陸上選手である障がい者アスリートとの交流、「パラリンピックを10倍楽しむ」と題した講演会、パラリンピック種目である「ボッチャ」を通じた交流および共同学習の3本の柱で取り組みました。これらの取組の中で、子どもたちの交流の際の表情やその後の感想文を拝見すると、子どもたちが如何に素直に、障がい者と向き合うことができ、自然な交流ができるのか、ということがよく分かりました。
共に学ぶ際に最も大切な視点は、「障がいのある子どももない子どももそれぞれに、授業内容が分かり、学習活動に参加している実感・達成感を持ちながら、充実した時間を過ごしつつ、生きる力を身に付けていけるかどうか」です。
本年4月からは、障害者差別解消法が施行され、公立の学校に対しても、障がい者への合理的配慮が法的義務として求められます。ユニバーサルデザインの授業など、障がいの有る無しに関わらず、より一人一人の学びを大切にした教育を進めていきたいと思います。
平成28年、明けましておめでとうございます。旧年中は、大変お世話になりました。本年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。
さて、昨年12月2日(水)、3日(木)の秩父夜祭。国指定重要有形民俗文化財で重さ12トン~20トンの屋台・笠鉾が街中を曳行され、傾斜約25度の団子坂を引き上げられる。同時に冬の夜空に大輪の花火が打ち上がる。今でもくっきりとその光景が眼に浮かびます。地域の方々と行政の長年培われた一致協力の姿勢がありました。「秩父の底力」に目を見張った2日間でした。
学校においても、家庭、地域、行政の一致協力の底力が実を結びました。12月17日に花の木小学校 、秩父第二中学校、翌18日には南小学校が、インターナショナル・セーフ・スクール(ISS)の国際認証を受けました。認証式典の子どもたちの発表も素晴らしいものでした。 子どもたちの発表の様子を見ていると、全国学力・学習状況調査では測ることができない、「いい力」が育っていると感じました。秩父は、物事の認識のベースになる、自然への畏敬の念や、太鼓、歌舞伎、獅子舞、踊りといった伝統・文化に培われた太い背骨が1本通っているのを感じます。屋台骨がしっかりしています。長年の歴史に培われた「秩父の底力」、「学校の底力」を強く感じた12月でした。
今年は申年。申年の人は、自分が決めたことは勢いのよい実行力で結果を出す勝負強さが特徴と聞いたことがあります。本年は、しっかりと結果を出す年にしたいと思います。
秩父夜祭。国の重要有形文化財である屋台・笠鉾の曳行、同じく重要無形文化財である曳き踊りや屋台歌舞伎が披露されました。12月3日、お天気にも恵まれた夜、秩父夜祭のクライマックス、団子坂の屋台・笠鉾の曳き上げ。あふれる観衆が見守る中、曳き手たちの物凄いエネルギーが爆発し、無事、6基の屋台・笠鉾が曳き上げられ、秩父神社の御旅所前に勢揃いした。無数の提灯の明かりと冬の花火との競演。壮観でした。これだけの大掛かりな祭を官民協働で準備を重ね、粛々と、見事に実施できる秩父市民の実力を強く感じました。この夜祭を誇りに思う子どもたちは多いと思います。
秩父には他にも多くの文化財があります。伝統文化を大切に思う心があります。平成18年に教育基本法が改正され、教育の目標として「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」ことが新たに規定され、学校においても、この伝統文化を尊重した教育実践が行われています。伝統文化を守り続ける心意気、自然の美しさ、水の美味しさ、そして、観光の活性化に向けた前向きな取組など、秩父出身ではない私としては、秩父の良さを感じることが多くあります。秩父市の子どもたちに接すると、そんな秩父という郷土への強い愛情を感じることができます。このような子どもたちの秩父への真っ直ぐな想いを受け止め、秩父の良さを生かした街づくりに尽力しなければと強く思います。
さて、11月には、市全体の安心・安全に向けた取組に対して、セーフ・コミュニティー(SC)の国際認証をいただきました。また、それに続いて、花の木小学校、南小学校、秩父第二中学校が、インターナショナル・セーフ・スクール(ISS)の認証も内定し、今月、認証式を行うことになっています。認証に当たって、次のような審査員の講評がありました。児童生徒が趣旨を理解し、児童会・生徒会活動などを通じて主体的な取組をしていること、保護者や地域の方々が、ボランティアとして様々な活動に参画し、その協力が素晴らしいこと、行政サイドからのトップダウンと、地域の方々の協力・支援というボトムアップのバランスが非常に良いことが評価されました。秩父夜祭をはじめ、様々な伝統文化や行事を継承する取組を通じて育まれた、市民全体に浸透した協力する姿勢が評価されたものと思います。
今後、学校教育においても、学校・家庭・地域が一致協力した「チーム学校」として、子どもたち一人一人の「団子坂登り」の後押しをしていきたいと思います。改めて、教育委員会としてもしっかりと取り組んで参ります。
11月5日、栃木県芳賀地区市町教育委員会の皆様が、研修で秩父市を訪れてくださいました。今後の新教育委員会制度の移行に際し、4月から既に新制度に移行している秩父市の取組を参考にしたい、という趣旨での研修視察でした。新教育委員会制度の背景、移行の経緯、制度の趣旨等、特に新教育長の責任について、秩父市の取組を含めお話するなかで、私自身も、改めて教育委員会とは何かを考える機会となりました。
4月に新教育長として就任し、教育委員会の機能強化ということで、教育委員会での議論の活性化、教育委員への情報提供、情報の発信等に取り組んでいますが、まだまだ十分とは言えない状況です。一方、国においては、教育改革が矢継ぎ早に進められています。教育再生実行会議の提言も、第8次にわたりなされ、中央教育審議会での議論を経て、法改正・制度化が精力的に進められています。義務教育学校、地域とともにある学校、チーム学校など、直接、市町村教育委員会に関わる大きな課題ばかりです。このような変化に対して、何を、どのように、取り入れるか、教育長のリーダーシップが求められるところだと思います。
教育における「不易と流行」をしっかりと見極める必要を感じます。改めて、「不易と流行」の意味を、ネットで検索してみました。「いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくこと。また、新味を求めて変化を重ねていく流行性こそが不易の本質であること。蕉風俳諧( しょうふうはいかい)の理念の一つ。」とありました。解釈には諸説あるようです。 「一時的な流行に惑わされず、変わらぬ大切なものを守る。」という捉え方もあるようです。言葉の意味・解釈は国語学者にお任せするとして、このように変化の激しい中、何故、変化する必要があるのか、しっかり見極めたいと思います。「不易と流行」を、変化の必要性を直視せず改革・改善をしようとしない姿勢の言い訳には使わないようにしたいと思います。変わらぬ大切なものを守りつつ、変化に柔軟に対応し、必要な新しいものを取り入れる姿勢を持ちたいと思います。
「不易と流行」の言葉を使った中教審の答申として、平成8年の答申があります。
『我々はこれからの教育において、子どもたち一人一人が、伸び伸びと自らの個性を存分に発揮しながら、こうした「時代を超えて変わらない価値のあるもの」をしっかりと身に付けていってほしいと考える。しかし、また、教育は、同時に社会の変化に無関心であってはならない。「時代の変化とともに変えていく必要があるもの」(流行)に柔軟に対応していくこともまた、教育に課せられた課題である。21世紀に向けて、急激に変化していくと考えられる社会の中にあって、これからの社会の変化を展望しつつ、教育について絶えずその在り方を見直し、改めるべきは勇気を持って速やかに改めていくこと、とりわけ、人々の生活全般に大きな影響を与えるとともに、今後も一層進展すると予測される国際化や情報化などの社会の変化に教育が的確かつ迅速に対応していくことは、極めて重要な課題と言わなければならない。』とされています。
今から19年前の答申であるが、再度、読み返し、新教育長としての責任の重さを痛感するとともに、「改めるべきは改める勇気」を持ちたいと思いました。